2026.06.11
午年(馬)のコンセプトシューズ
ここ2年ご縁をいただき、出展させていただいている干支展に向けて制作したコンセプトシューズです。
今年は午年ということで、「馬」を主題に据え制作しました。
普段は、お客様一人ひとりの足の採寸をもとに、極めてシンプルで実用性の高い靴をお作りすることが多くあります。オーダー靴が初めてという方が大半であり、「どんな場面でも履ける一足」を求めて、黒や焦茶といったベーシックな色を選ばれることが多いのが特徴です。中には、靴の内側にご自身のテーマカラーを取り入れたり、さりげなくアイコンや意匠を忍ばせたりする方もいらっしゃいます。
私たちは、オーダー靴の本質的な魅力とは「その人専用の木型を作り、無理のない快適な環境を足に与えること」にあると考えています。それは、他人には合わなくても、自分にとっては唯一無二の“シンデレラフィット”であるということ。『他の人には分からない、自分だけの靴を持つ』という体験こそが、オーダー靴の最も贅沢で美しい在り方だと思っています。
本作は、そうした日常の靴づくりとは異なり、馬というモチーフの拡張と、自身の人生の一端を重ね合わせながら制作しました。
象徴となるのは、シルバー製の尾錠です。これは十数年前、シルバーアーティストとして活動していた妹に制作してもらったデッドストックで、蹄鉄をイメージしつつ、樹木のうねりのような有機的な模様が施されています。
この尾錠に合わせ、シングルモンクのデザインを新たに描き起こしました。シンプルなプレーントゥの中に、「丙午」の力強さを重ね、バイクのタンクに見られるようなファイヤーパターンを、漆を用いたステンシル技法で表現しています。
革はもともとベージュの生成りカーフを使用し、全体にムラ染めを施しました。つま先には赤みのあるバーガンディ、踵周りにはオレンジからブラウンへと移ろうグラデーションを重ね、動きと温度を感じる色彩に仕上げています。
踵のデザインは、外くるぶし側のみにアシンメトリーな切り返しを入れ、内側には小さな穴飾りで馬が駆け抜ける姿を表現しました。さらに、手描きで染めた草原(炎)を背景に、躍動する馬のイメージを投影しています。
本作には、「靴を通じて足を大切にしてほしい」という願いと、「履くことが最も自由で楽しい行為である」という想いを込めました。
そして同時に、私たちリンゴセイカ自身もまた、これから先へと駆け上がっていく存在でありたいという決意を重ねています。
リンゴセイカ
店主 安広洋司